― 那覇空港近くの小さなレンタカー会社が、送迎バスの中の沈黙を変えた話 ―
到着ロビーの、あの長い列
那覇空港から車で5分。大城さん(仮名)が営むレンタカー会社は、決して大きな店ではありません。カウンターは2つ、スタッフは大城さんを入れて3人。それでも、繁忙期の到着ロビーには、いつも同じ光景が広がっていました。
飛行機が到着すると、まとまった人数が一斉にカウンターへ流れ込みます。予約内容の確認、免許証のチェック、保険やETCカードの説明、カーナビの設定。ひと組あたり10分はかかる手続きを、次々とこなしていく。
そこに追い打ちをかけるのが、多言語対応でした。台湾からの家族連れ、韓国からのカップル、英語しか通じない旅行者――「予約は何日からでしたっけ」「ここから美ら海水族館までどう行けばいいですか」「保険はどこまで入ってますか」。同じような質問が、違う言語で、同時多発的に飛んでくる。
大城さんはガイドブック並みに沖縄の道に詳しく、おすすめのドライブルートを聞かれれば喜んで教えたい人です。けれど、行列がある日には、その一番得意なはずの会話にすら時間を割けない。「ただいま満車のため、少々お待ちください」という言葉を繰り返すたび、申し訳なさが募っていきました。
「予約の確認と、道案内だけでも、先に済ませておけたら」
そう思っていた大城さんの前に現れたのが、御社専属のAIコンシェルジュ――「AI番頭」でした。

カウンターの前に、もう一人の番頭を置く
私がご提案したのは、大城さんの代わりに電話を取る「AI秘書」ではありません。ご提案したのは、カウンターに立つ前の“もう一段階”を任せられる「AI番頭」でした。
老舗旅館の番頭さんは、お客様が玄関をくぐる前から仕事を始めています。予約内容を確認し、道中の案内をし、到着してからは滞りなく部屋へ通す。レンタカー会社に必要だったのも、まさにこれでした。空港に降り立った瞬間から、いえ、飛行機に乗る前から、お客様のそばに立って一次対応をする番頭です。
これは、決まり文句を返すだけのチャットボットとは違います。このお店の車種ラインナップ、保険プラン、ETCカードの貸し出し条件、そして大城さん自身が知り尽くした沖縄のドライブルート――この会社にしかない情報を覚え込んだ、“この店専属”の会話型AIです。
土台にしたのは、ノーコードで会話型AIを育てられるプラットフォーム「miibo(ミーボ)」。30年にわたって沖縄の地域振興に関わってきた中で、私は「システムは立派でも、現場の言葉が入っていなければ使われない」ことを何度も見てきました。だからこそ、大城さんの言葉遣いや店の個性がそのまま伝わる設計にこだわりました。

出発前から、旅は始まっている
導入は、来店を待つところからではなく、予約が入った瞬間から始まりました。
まず、予約確認メールとLINEに、AI番頭への入口を設けます。お客様は、飛行機に乗る前の空き時間に、スマホから話しかけるだけです。
次に、大城さんがカウンターで毎回説明していた内容を、番頭に教え込みました。
- 予約内容の事前確認(日時・車種・オプションの確認と多言語での回答)
- 空港からの送迎案内、カウンターの場所と手続きの流れ
- 保険プラン・ETCカード・チャイルドシートなど、よくある質問への回答
- 定番の観光スポットまでのドライブルート提案(首里城、美ら海水族館、古宇利島など、所要時間の目安つき)
- 給油・返却ルールや延長・変更の受付条件
大城さんが大切にしていたのは、「安全に関わる最終判断は、必ず人が行う」という一線でした。事故対応や特別な保険相談、車両トラブルの一次切り分けは、これまで通り大城さん自身が担います。AI番頭が引き受けるのは、あくまで出発前の一次案内です。

行列より先に、会話が終わっていた
導入から数週間が過ぎた頃、変化はカウンターよりも先に、送迎バスの中で起きていました。
「もう美ら海水族館までのルート、教えてもらいました」
そう言うお客様が増えたのです。飛行機の中や到着ロビーの待ち時間に、すでにAI番頭とのやり取りを終えている。カウンターに着く頃には、確認事項はほとんど残っていません。大城さんとスタッフは、免許証の照合と鍵の受け渡しに集中できるようになり、ひと組あたりの対応時間は目に見えて短くなりました。
多言語の一次対応が自動化されたことで、あの「同時多発的な質問攻め」もなくなりました。空いた時間で、大城さんは久しぶりに、お客様と直接ドライブの話をする余裕を取り戻しています。
「効率化のために番頭を入れたつもりが、結局いちばん残ったのは、人にしかできない会話でした」
大城さんはそう振り返ります。

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次回、第5話は「不動産会社編」。内見予約と物件のよくある質問対応で、反響対応のスピードを変えた話をお届けします。

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